10月15日は日本新聞大会の席上、新聞協会賞の表彰があった。読者には直接関係ないが、日頃読んでいる新聞の記者が応募作に刺激され腕を上げれば紙面も面白くなる。
編集、技術、経営・業務に分けて表彰され、編集はニュース、写真・映像、企画の3部門あるが、企画部門について述べたい。応募数が多く各地の主要な地方紙も加わり、日本の記者たちがどのようなことに関心を示しているか、時代の一端を窺えるからだ。
今年は新聞・通信社から45件の応募があった(他に放送7件)。私なりに区分けすると、医療や心の病・高齢化の問題を取り上げたものが11件と最も多い。災害・公害が7件、国際化が6件、地域振興5件、社会保障、生き方が各4件。地方自治、教育、科学・安全、その他各2件だ。以前は地方自治や教育、公害など政策(の欠如)に目を向けた企画が多かった。最近は個人に目を向け、そこから社会の問題を解き明かそうとする傾向が見られる。
その中で、地方自治という伝統的なテーマに突き進んだ北日本新聞(本社・富山市)の「議会の不正追及と改革を訴えるキャンペーン報道『民意と歩む』」が、今年の協会賞に決まった。昨年からの富山市会の報道に注目していただけに、順当な結果と納得できた。
 長野市に住んでいる私は、富山県紙である北日本新聞を読む環境にない。それにもかかわらず昨年、富山市会で、自民だけでなく民進党の議員までが、政務活動費を不正に懐に入れていたのを暴かれ、次々辞職したことを知っていた。共同通信の記事を信毎で読んだし、朝日新聞やNHK、民放もニュースで取り上げたからだ。
 その結果、議会の政務活動費が全国的に注目され、改革のきっかけとなった。共同通信が今年7月から8月にかけて都道府県議会や県庁所在地市議会など全国主要99議会を対象に行ったアンケートでは、昨年9月以降、ほぼ半数の48議会が支出ルールの見直しなど政務活動費に関する改革を実施した(信毎8月17日1面トップ)。
 県庁所在地とはいえ、一市会の問題が、全国的なテーマに波及し報道されることは、珍しい。北日本はじめ富山の記者たちが、まっすぐに(他社の特ダネだからと冷たくあしらうこともなく)、報道合戦をしていたことは、想像出来た。
協会賞内定を知り、改めて、昨年来の北日本の紙面に目を通した。
 富山県の民放、チューリップテレビの特ダネも少なくない(岩波書店刊「富山市議はなぜ14人も辞めたのか 政務活動費の闇を追う」に詳しい)。朝日の昨年9月21日の報道をきっかけに、富山市会事務局が、情報公開したチューリップテレビの名前を自民党市議に伝え、開示報告者のコピーを会派控え室に届けたと認めた時も、北日本は「公開請求、市議に漏えい」と翌日社会面トップできちんと追いかけている。
新聞、放送の枠を超え、記者たちが一緒に怒り、取材先に立ち向かっているのが目に浮かぶ。爽やかな印象を受ける。
 そのような連帯感が芽生えたとすれば、発端は、政務活動費以前に、北日本が展開した議員報酬値上げ反対キャンペーンや「取材妨害」事件にあるのだろう。
 富山市会は、昨年6月15日、非公開の審議会答申を受けて議員報酬を月10万円増の70万円とする条例改正案を、市民の反発にもかかわらず自民、公明、民進党系の賛成で可決する(政務活動費が問題になり12月に撤回)。この可決に先立ち、自民議員全員に手分けしアンケート調査していた女性記者を自民会派会長が押し倒しメモ用紙を奪った。この事件を北日本は「報酬問題で取材妨害」と6月10日1面トップで報道している。
 これをきっかけに、北日本は「地方議会取材班」を作り、意見、疑問を募集する社告を掲載。市会の政務活動費が問題になる前の翌月7月13日、富山県議の一人が、偽造の書店領収書をもとに4年半で460万円を不正入手していたとの特ダネを1面トップで掲載。政務活動費不正追及のさきがけとした。
 協会賞に応募した内容は、これらの報道に、今年1月1日から57回展開した連載「民意と歩む 議会再生」も含めている。
 政務活動費の不正は領収書を偽造する単純なもの。各会派に割り当てられる政務活動費を、年度末に使い切りたいという意識が背景にあったことが、連載を読むと良く分かる。
 これに対し、北日本はじめ各メディアが情報公開制度を活用し、支出の裏取りをして、支出されていない伝票が発覚、不正が次々明らかになる。情報公開制度が報道の強力な武器になっている。
 だが、このメディアの武器も、先述のように市会事務局が市議に伝え隠ぺいを画策させた。富山市会だけでなく、高岡市会はじめ、全国で請求者名などの情報漏えいが次々明らかになった、と連載は伝えている。
 市町村だけでなく、国や県でも、より巧妙に情報公開制度の骨抜きが今後も行われかねない。メディアは、積極的にこの制度を活用し、骨抜きをくい止める努力が必要だろう。
     ◇
 協会賞応募作は、他社の記者に良い刺激になると冒頭書いた。私も、受賞作をもとに出版された何冊かの本に学んだ。その中に、北日本が1969年受賞作を出版した「よみがえれ 地方自治」の分厚く赤い表紙の本もある。長いこと机上にあり、市町村を取材するとき、めくったものだ。
 北日本の社内でも、地方自治を見つめる姿勢は、脈々と受け継がれ、それが今回のキャンペーンにつながったのだろう。
今年の協会賞応募作が、他の記者たちにも読まれ、刺激を与えることを期待したい。そのためにも、選考後、応募作を一定期間展示し、あるいは希望社に貸し出す仕組みが望まれる。
(了)

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